高橋 | 男性・33歳/紫月商事の営業担当
佐藤 | 男性・31歳/高橋の同僚
ナレーション | 第2幕途中から登場
紫月商事のオフィス。朝。 高橋が自席に着き、受信トレイを開いている。 佐藤が近づく。
001 佐藤 「高橋さん、10時の打ち合わせ、先方から資料来ていますか?」
高橋は画面を見たまま答える。
002 高橋 「まだですね」
新着メールが届く。 件名は「【至急】見積書差し替えのお願い」。差出人名はいつもの取引先担当者。
003 高橋 「あ、来た。よかった」
高橋が添付ファイルをクリックする。 画面が一瞬暗くなり、「ファイルを開けませんでした」と表示される。
004 高橋 「……開けないな」
十時が近い。佐藤が会議室へ向かう準備をしている。
005 佐藤 「先に会議室、準備しておきますね」
006 高橋 「お願いします」
二人が席を離れる。 無人になったパソコン画面の隅で、小さな処理表示が点滅する。
――数日後。
オフィスが慌ただしい。電話が鳴っている。 佐藤が自分の画面を見ながら、高橋へ振り返る。
007 佐藤 「高橋さん、共有フォルダに入れません。ほかの部署も同じみたいです」
008 高橋 「今朝までは使えていたのに……」
高橋のパソコンに社内通知が表示される。 「不審なメールの添付ファイルが開かれた可能性があります」。 高橋の表情が止まる。
009 高橋 「……あのメール?」
時間が静止する。 数日前、添付ファイルをクリックしようとしている高橋の手。
010 ナレーション 「メールには、本物に見せるための仕掛けがありました」
差出人アドレスが拡大される。
011 ナレーション 「差出人名は同じでも、アドレスは一文字だけ違っていました」
添付ファイル名の全体が現れる。
012 ナレーション 「書類に見えていた添付ファイルにも、別の拡張子が隠れていました」
三つの手がかりが並ぶ。
013 ナレーション 「違和感は、最初からそこにありました」
時計の針が逆回転し、画面が白くフラッシュする。
同じ朝。同じデスク。同じメール。
014 高橋 「あ、来た。よかった」
カーソルが添付ファイルへ重なる。 クリックの直前、目線が差出人欄へ戻る。指が止まる。
015 高橋 「……待って」
高橋は添付ファイルを開かず、受話器を取る。
016 高橋 「念のため、先方に確認してみます」
画面が左右に分かれる。 クリックした手と、クリックする前に止まった手。
017 ナレーション 「違いは、開く前の数秒でした」
ーFinー